大阪地方裁判所 平成6年(レ)178号 判決 1995年1月27日
控訴人
株式会社全国資格研修センター
右代表者代表取締役
橋本順一
被控訴人
北野久子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被控訴人は、控訴人との間で、平成五年七月一九日、テレフォンアポインターとして雇用契約を締結した。
2 控訴人は、被控訴人に対し、平成六年二月一一日、控訴人の営業本部長脇村守(以下「脇村」という。)らを通じて、即時解雇する旨の意思表示をした。
3 被控訴人は、控訴人から平成五年一〇月一六日から同六年一月一五日までの九二日間で合計四五万五五五〇円(内訳・平成五年一一月分は一五万九六九〇円、同年一二月分は一五万九四四〇円、同六年一月分は一三万六四二〇円)(ただし、賃金締切日は、毎月一五日であり右賃金額は、いずれも交通費を除く。)の支払を受けたので、解雇予告手当の基礎となる平均賃金は四九五一円である。
4 よって、被控訴人は控訴人に対し、労働基準法二〇条一項本文に基づき、解雇予告手当として三〇日分の平均賃金である一四万八五四八円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2は否認する。
控訴人は、被控訴人に対し、解雇通知をしたことはない。かえって、被控訴人は、営業成績が芳しくなかったので、控訴人が叱咤激励をしたところ、被控訴人は、職場放棄をして出社しなくなってしまったものである。
三 抗弁
1 解雇予告通知
控訴人は、被控訴人に対し、同年一月一〇日、三〇日後に解雇する旨の予告をした。
よって、解雇予告手当の支払義務はない。
2 自主退社(一部抗弁)
被控訴人は、控訴人に対し、右同日、二月分の給料締切日である同年二月一五日までに五件以上の注文を取ることができなければ自主退社する旨申し出た。
ところが、被控訴人は、それ以降も一件も注文を取ることができず、勤務態度にも目に余るところが見受けられたため、脇村営業本部長らが叱咤激励したところ、勝手に職場を放棄し無断欠勤を続け、同年二月一五日、自主退社した。
したがって、控訴人が被控訴人に対し、解雇予告手当支払義務を負うとしても同月一二日から同月一五日までの四日分の平均賃金であって、その余の日数分については支払義務を負うものではない。
四 抗弁に対する認否
抗弁1、2は否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1については当事者間に争いがない。
2 請求原因2について
(人証略)の各証言、被控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、平成六年二月一一日、同会社の営業人事全般を担当する常務取締役である足立の了解の元に、同会社次長脇村から指示を受けた控訴人会社社員中村を通じて、被控訴人に対し、同日をもって解雇する旨通告したことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 請求原因3について
成立に争いのない(証拠略)及び弁論の全趣旨によると、請求原因3の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 抗弁
1 抗弁1について
成立に争いのない(証拠・人証略)の結果(一部)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(一) 控訴人会社においては、入社後三か月を経過したテレフォンアポインターには毎月一二〇万円以上の売上げがノルマとして課せられていた。ところが、入社三か月後以降の被控訴人の売上げは、平成五年一〇月が五九万円、同年一一月が〇円、同年一二月が一九万円、同六年一月及び二月はいずれも〇円であり、被控訴人は、右ノルマを達成することができなかった。控訴人は、このような被控訴人の営業成績を考慮し、このまま雇用を継続するかについて検討を開始した。そして、平成六年一月一〇日、右足立は、控訴人会社の応接室において、被控訴人に対し、「前年一二月のあなたの売上は〇であったし、一月も同様で売上が上がる見込みがない。がんばってもらわないと、このままでは三〇日後に解雇する。」旨告げた。これに対し、被控訴人は、足立に対し、一か月に最低五件の契約を取るよう努力する旨述べたので、足立は、被控訴人に対し、それなら構わない旨述べ、暫く様子をみることにし、その旨脇村に伝えた。その後、控訴人は、被控訴人が営業実績を上げられるかどうか、その勤務ぶりを観察した。
(二) ところが、被控訴人は、それ以降も売上を上げられず、自ら申し出た目標も達成できる見込みがなく、また、その勤務態度も良好とはいえなかった。そこで、控訴人は、前記認定のように、被控訴人に対し、同年二月一一日、同日をもって解雇する旨通告した。
以上の事実を認めることができるところ、被控訴人本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用し難く、ほかに右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、労働基準法二〇条所定の「解雇の予告」は、使用者が労働者に対し、確定的に解雇の意思を明示することを要すると解するのが相当であるところ、右認定の事実によると、足立は、被控訴人に対し、平成六年一月一〇日において告げた事実は、「がんばってもらわないと、このままでは三〇日後に解雇する。」旨通告しているものの、その内容自体曖昧であるほか、その趣旨を善解するも、被控訴人が業績を上げなければ一か月後に解雇することがあるかもしれないという解雇の可能性を示すものにすぎないとの趣意を越えるものではなく、加えて、その後、控訴人は被控訴人の申し出を受け入れて被控訴人の勤務実績を観察したことに徴すると、足立の被控訴人に対する右通告をもって確定的な解雇の意思を予告したものとは到底認めることができない。
なお、控訴人は、足立が被控訴人に対し、右同日に通告した内容は「三〇日後に解雇する。最後くらいがんばってもらわないと」ということであった旨主張するが、右事実を認めるに足りる証拠は全くないばかりか、右認定にかかる足立の被控訴人に対する右通告後の事実関係に徴すると、右主張のような通告はなされなかったことを窺うことができる。
ほかに抗弁1の事実を認めるに足りる証拠はない。
2 抗弁2について
抗弁2の事実を認めるに足りる証拠は全くない。
三 結論
以上の次第で、被控訴人の本件解雇予告手当の請求は理由があり、これを認容した原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官 黒津英明 裁判官 太田敬司)